「あの時期、何であんなに荒れたんだい?」
「お母さんへの思いがこんがらかって、自分で整理がつかなくなっちゃったの」
かつてとはうって変わったおだやかな表情で、専門学校に通い出したA子が、私と出会った頃の高校時代を振り返る。
A子の母親は、A子が小学六年の時に、アルコール依存症の夫の、度重なる暴力に耐えかねて離婚、一人娘のA子を連れて、実家に戻っていた。A子は幼い頃から、手のかからない素直な子で、祖父母にとっても、自慢の孫であった。A子は母親の実家でも、結婚生活に失敗した母親が、これ以上責められないために、必死で自慢の孫を演じ続けたのである
しかし、母親は、今までの過酷な結婚生活から解放された反動からか、抜け殻のようになり、母親の役割を放棄して、全てを祖父母に依存するようになってしまったのだった。
そこでA子は母親に提案する。「私が頑張っていい点数を取ったら、仕事を探してこの家を出よう!約束だからね!」しかし、この約束は守られることはなかった。
A子の怒りはついに爆発する。「私からは、父を奪っておきながら、自分は祖父母に甘えて平然としている。この人は身勝手な人で、この人のために一生懸命我慢している私のことなんか、何にも解っていないんだ!」
母と娘、親子であってもライバルである。母を深く愛するがゆえに、また憎しみの感情も深くなる。A子はこの相反する感情(アンビバレンス)を言語化する力を持ち合わせていなかった。
それ故に、行動化(物を投げる、家族に暴力を振るう、犬を虐待するなど)することで、母親へのメッセージを発信し続けるしかなかったのである。
子どもの気になる行動の裏側には、必ず理由がある。子どもから発信されるメッセージを受け止めきれないと、これでもかこれでもかとメッセージはエスカレートする。一方、行動化できない子どもたちは、身体化(腹痛、頭痛、吐き気、めまいなど)することで、メッセージを発信することになるのだ。
A子の母親は、A子の内なるメッセージを受け止めることができずに、暴力におびえ、いつしかA子のいいなりになり、振り回されることになる。家の中は破壊しつくされ、三匹の犬たちはそろって円形脱毛症を引き起こす。そして、祖父はA子の暴力で入院するに至るのだ。A子の荒れ方が、いかにすさまじかったかがわかろうというものだ。
「確かに、暴れ回り、大声でみんなを罵倒することは快感だったけど、暴れながら、もう私を止めて!私を叱って!って叫んでいたような気がする」それからA子は部屋に引きこもる。
「回復に向かうきっかけは?」
「お母さんがカウンセリングを受けて、仕事をし始めたこと。そして、以前より、きれいになっていったことかな」
母親がA子に振り回されることをやめ、思秋期の自分探しを始め、自立した大人としての輝きを取り戻し始めたことで、A子も安心して、自分探しのスタートラインに立つことができたのであろう。
「祖父母に頼らないで、自分の力で生きていくお母さんでいてほしかった!」
母親は、娘にとって最高の未来モデルである。わが国が世界で一番、子育てのしにくい環境であったとしても、幸せになることをあきらめないで欲しい。その粘り強い、思秋期における自分探しの生き様を、わが子に見せてやることが、親が残してやれる最高の遺産ではないだろうか。
- Posted by 2012年09月05日 (水) | コメント(0)
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