「このごろ、中学二年になる長男との関係がうまくいかないんですよ。小学五年の次男の方は、まだかわいいんですけどねぇ・・・」
「トラブッているんですか?」
「いえ、大きなトラブルはないんですけど、どうしてもかわいいと思えなくて・・・」
「いつ頃から?」
「もう小さな頃からですかねぇ」
この相談の主は、40代前半のサラリーマンである。仕事もできるし、人づき合いもよい。
会社でも将来を期待されている人材である。
しかし、この頃ずっと、もやもやが晴れないという。
我が子を愛せないことで、自分を責め、家に帰ることが苦痛になってきたのだそうだ。
このような父親は多い。
長男と父親は、基本的に母親という一人の女性を奪い合うライバルである。この親子の心理的葛藤を、フロイトはエディプスコンプレックスと名づけている。
聞いてみると、妻となる女性と付き合い始めてすぐに、妊娠がわかり、人並みなデートの時間など殆どなかったという。
しかし、子どもが生まれたら、彼女も又以前のように自分の元に戻ってくれると、心待ちにしていたのだが、子どもが生まれてからは、全て子どもが最優先になり、もうベタベタする機会など与えられはしなかったのである。
この時から、我が子に対して、自分から愛する女性を奪い去った存在として、受け入れがたい感情が芽生えたとしてもおかしくはない。
彼は、人には言えないその感情を封印して、家族のために単身赴任の不自由な生活を耐えてきたのである。
単身赴任先から帰宅するたびに、息子は反抗の度合を強め、母子カプセルは強化されていく。
彼のストレスは蓄積されるばかりであった。
そして、一カ月ほど前に、単身赴任先から帰ると、妻は長男の部活動の応援のために、家にはいなかった。彼は我慢できずに、今まで溜まっていた思いを妻にぶつけたのだ。
「お前、俺とあいつとどっちが大事なんだ!」
「そりゃあ、あの子が大事よ!」
「俺は、この頃、あいつがむかついて、ぶん殴ろうと思うんだけど・・・」
「そんなことしたら、私はあの子と出て行く!」
自分があの時、避妊をしなかったのが、一番悪かったんだと、自分を責めながらも、新婚時代を長男のせいで奪われてしまったという思いが、どうしても消せないのだ。
「長男には、何にも責任がないことだというのは、百も承知なんですがね。女房に、この切ない思いをわかってほしいと思うのは甘えでしょうか」
「いえいえ、無理していい親父を演じるよりも、あるがままの思いを言葉にすることは大切です。言葉にして発しなければ、心の内は伝わりません。男はいくつになっても、誰よりも妻に愛されたい!誰よりも妻にほめられたい!誰よりも妻に必要とされたい!誰よりも妻の役に立ちたい!と思っているものですよ。これからも、恐れずにあなたの心情を奥さんにさらけ出して下さい。
今日、あなたの話を聞けて、本当によかった。あなたは私にうり二つでしたから」
- Posted by 2013年09月23日 (月) |
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